蔓草や羊歯の葉の山縵《ヤマカヅラ》や、「あしびきの山の木梢《コヌレ》」から取つたといふ寄生木《ホヨ》の頭飾《カザシ》や、山の立ち木の皮を剥いで削り掛けた造り花などであつた。かうして易《カ》へられた山づと[#「山づと」に傍線]は、初春の家の門や、家内に懸けられた。牀柱には山かづら、戸口や調度に到るまで、山へ行つた様に見せる山草、軒に削り掛け、座敷に垂す繭玉・餅花・若木《ワカギ》の作枝《ツクリエダ》が、古くして新しい年の始めの喜びを衝昂《コミア》げて来るのも、其因縁が久しいのだ。
此三州の山家の門松は、東京などのとは違つて居た。さう言へば、歳神なども常世神や先祖のみ霊に近づいた考へで、祀られて居た。さう云ふ話に這入らない中に、春の初めの此「言《イ》ひ立《タ》て」も、めでたく申しをさめねばならなくなつた。「たう/\たらり」長々しいことを何より先にする言祝《コトホ》ぎの言ひ癖が出たと思うて、読者に於ても、初笑ひを催して頂きませう。



底本:「折口信夫全集 2」中央公論社
   1995(平成7)年3月10日初版発行
底本の親本:「古代研究 民俗学篇第一」大岡山書店
   1929(昭和4)
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