死に絶えて、唯一人残つた老婆が、天王寺辺で寂しく御迎へを待つてゐるといふ。御一新騒ぎの当時、此家へ一夜の宿りを求めた六部があつた。処が、其翌日、彼が立つて行く影も形も見た者が無いのに、其姿は其儘消えて了うた。其後、何処から得た資本ともなく、たんまり[#「たんまり」に傍点]とした金が這入つた模様で、色々の事に手を出し、とん/\拍子で指折りの金持ちになつたが、どうも不思議だ、といふ取沙汰《トリサタ》の最中に、主人が死に、息子が死にして、殆ど枝も幹も残らぬ様に、亡びて了うた。長堀から鰻谷《ウナギダニ》へかけて、沖田の六部殺しと言うて、因果の恐しさを目前に見た様に噂した事であつた。
八 日向の炭焼き
難波《ナンバ》の土橋《ドバシ》(今の叶橋《カナフバシ》)の西詰に、ヽヽといふ畳屋があつた。此家は古くから、日向に取引先があつたと見えて、土橋の下には、度々日向の炭船が著いてゐたさうである。其炭船が日向へ帰つた後では、きつと行方知れずになる子供が尠からずあつたといふ。此は、畳屋が子供を盗んで、日向へ炭焼きに遣るのだ、といふ評判であつた。其で、私等の子供の頃にも、どうかした折には、土橋の
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