れてゐる家である時は、空樽の山を築き、驚くべき入費を掛けさせて、痛快とする。
若しまた、若中或は兄若い衆の怨を買うた節には大変で、更に、ばゞかけ[#「ばゞかけ」に傍線]と称する野臭の漲つた挙に出る。其は、肥桶《コエタゴ》を宴席に担ぎ込んで、畳の上にぶちまけるので、其汚物の中には蛙・蟇などが数多く為込んであつて、其がぴよん/\跳ね廻つて、婚礼の席をめちや/\にする。十四五年前、木津から半里《ハンミチ》ばかり隔たつた津守新田《ツモリシンデン》の某家から、他村へ輿入れの夜、嫁御寮を始め一同、十三間堀《ジフサンゲンボリ》といふ川を下つて了うた処が、土橋の上に隠れてゐた津守の若い衆が、其船目掛けて、肥桶をぶちまけたので、急に、婚礼の日取りを換へた、と云ふ話もある。
若中の権威は、啻に婚礼の晩に発揮するばかりではなかつた。祭りの際には、兼ねて憎んでゐる家に、棒はな[#「棒はな」に傍線]といふ事をする。此は、だいがく[#「だいがく」に傍線]の舁《カ》き棒を其家の戸なり壁なりに撞き当てる方法で、何しろ恐しい重量を棒鼻に集中して打ち当てるのだから、堪《タマ》つたものではなかつたさうである。
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