い/\と音がして、棟も柱も真直ぐに起き直つた、と云ふ事である。現に、此を見て居つたといふ人が、何人か今も居る。
       五 樽入れ・棒はな
木津では若《ワカ》い衆《シユ》の団体たる若中《ワカナカ》の上に、兄若《アニワカ》い衆《シユ》と云ふ者があつた。若中《ワカナカ》に居た時から人望があつた者が、若い衆の胆煎《キモイリ》をするので、其等の家が、年番に「宿」と称して、若い衆の集会所になつたものであつた。
此|兄《アニ》若い衆は、すべて、若中を心の儘に左右し、随分威張つてゐた。祭りが近くなると、町々の「宿」の表には、四尺四方ぐらゐな四角の枠の中に、一本隔てを入れたのに、大きな御神燈を二張《ふたはり》括り附けて、軒に懸けてゐた。だいがく[#「だいがく」に傍線]に出る揃への衣裳の浴衣地は、此処で分けてくれた事を覚えてゐる。此処は若中の策源地なので、余程こはもてのしたものであつた。
ばうた[#「ばうた」に傍線]の哀訴も、此処へ提出せられる事が多かつた。町内の豪家に婚礼があると、此処に集る若い衆が、おめでたのある家の表へ空樽を積み込む。さうして、一挺幾らづゝかの勘定で、祝儀の金を乞ふ。其が憎ま
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