など言ふのは、難波に沢山ある名字で、戸主が本願寺のおかみそり[#「おかみそり」に傍線]を頂く節、貰うた法名を、そのまゝつけたのである。その中、会所であつたのをもぢつて改正、商買の質をわけて竹貝《タケガイ》・からや[#「からや」に傍線]と言ふ屋号を、唐谷《カラタニ》としたのなどは、秀逸の部である。旧来の通称の儘のは、茶珍《チヤチン》・徳珍《トクチン》・鈍宝《ドンボオ》・道木《ドオキ》・綿帽子《ワタボオシ》・仕合《シヤワセ》・午造《ゴゾオ》・宝楽《ホオラク》・雷《カミナリ》・鳶《トビ》・鍋釜《ナベカマ》などいふ、思案に能はぬのもある。
南波屋《ナンバヤ》が南波、木津|屋《ヤ》が木津谷《キヅタニ》になつたのは普通だが、摂津・丹波の山間十石から出て来て、屋号としたじゅっこく[#「じゅっこく」に傍線]を名字にしてから、俄かに幾代か前に、十石米を貧乏人に施した善根者があつたので、十石で通ることになつたのだ、と由緒を唱へ出した家もある。皆恐らくは、親類会議や、役場の役人の意見を借りたのであらうが、妙な名字を持つた家の子どもは、大困りである。「茶珍ちやあ(茶)沸せ」「徳珍とっくりぶち破つた」「宝楽(炮
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