の周りを浄める意味が出て来る。いはふ[#「いはふ」に傍線]は周囲を浄めて中に物を容れる、又はくつ附けるといふ意味である。即《すなはち》魂をくつ附けて、離さぬやうにするのである。鎮詞といふのは、その言葉なのである。それ故、鎮詞・鎮護詞などゝ書かれてゐるのである。
鎮詞は、不思議なもので、その発達によつて、祝詞や、寿詞の古格が乱れた。祝詞と、鎮詞との区別は、大体左の如きものである。
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祝詞
     ┌→イ
 a─→a’[#「a’」は縦中横]│→ロ
      └→ハ
鎮詞
     ┌→イ
 a─→b│→ロ
     └→ハ
aは天皇、a’[#「a’」は縦中横]は中臣、bは斎部、イロハは中臣・斎部それ/″\の命令をきくもの
[#ここで字下げ終わり]
祝詞は、天皇の資格で、その御言葉のとほりに、中臣が云ふのであるが、鎮詞は、少し趣きが違ふ。氏族の代表者が、ほんとうに服従を誓うた後、其下に属してゐる者に、俺もかうだから、お前達も、かうして貰はなければならぬ、といふやうな命令の為方である。ちようど、掏児や博徒の親方が、其手下に、警察の意嚮を伝へるといつたやうな具合のもので
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