調和の上に生命ある律的感覚の美しさを与えたのは、蒲原氏なのだが、――之を使った上から見れば、薄田氏の方が著しく多い。
薄田氏の詩には驚くばかり古語が取り込まれている。泣菫さんに驚く事は、私の様な古文体の研究を専門とする者にすら、生命の感じられない死語の摂取せられている事である。泣菫の語彙《ごい》を批評した鉄幹は、極めて鄭重《ていちょう》な言い廻しではあるが、極めて皮肉な語気を以て噂した(明星)。
たとえば「青水無月[#「青水無月」に白丸傍点]と言ふ語は、われ/\は辞書にすら見出す事は出来ないが、薄田氏だから拠り所があるに違ひない。美しい言葉だ」と言う風に。当時の詩人・文人の間に行われた勉強の一つで、辞書を読み、その美しい語を覚える、そう言う行き方の、泣菫さんにあり過ぎることを諷刺《ふうし》したものである。矮人[#「矮人」に白丸傍点]をちひさご[#「ちひさご」に傍線]と言う古語で表現した事について、ひきうど[#「ひきうど」に傍線]との関係を論じているあたりも、与謝野氏自身は、原書からの知識でなくては、と言うような不服を暗示したものであろう。まことに日本の初期象徴詩家の描いた彩画《だみえ》
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