と》らしい姿に更《かわ》って来ても、家庭の生活には、何時までたっても、何処か農家らしい様子が、残って居た。家構えにも、屋敷の広場《にわ》にも、家の中の雑用具《ぞうようぐ》にも。第一、女たちの生活は、起居《たちい》ふるまい[#「ふるまい」に傍点]なり、服装なりは、優雅に優雅にと変っては行ったが、やはり昔の農家の家内《やうち》の匂いがつき纏《まと》うて離れなかった。刈り上げの秋になると、夫と離れて暮す年頃に達した夫人などは、よく其家の遠い田荘《なりどころ》へ行って、数日を過して来るような習しも、絶えることなく、くり返されて居た。
だから、刀自たちは固《もと》より若人らも、つくねん[#「つくねん」に傍点]と女部屋の薄暗がりに、明し暮して居るのではなかった。てんでに、自分の出た村方の手芸を覚えて居て、其を、仕える君の為に為出《しいだ》そう、と出精してはたらいた。
裳《も》の襞《ひだ》を作るのに珍《な》い術《て》を持った女などが、何でもないことで、とりわけ重宝がられた。袖《そで》の先につける鰭袖《はたそで》を美しく為立てて、其に、珍しい縫いとりをする女なども居た。こんなのは、どの家庭にもある話でなく、こう言う若人をおきあてた家は、一つのよい見てくれ[#「見てくれ」に傍点]を世間に持つ事になるのだ。一般に、染めや、裁ち縫いが、家々の顔見合わぬ女どうしの競技のように、もてはやされた。摺《す》り染めや、擣《う》ち染めの技術も、女たちの間には、目立たぬ進歩が年々にあったが、浸《ひ》で染めの為の染料が、韓の技工人《てびと》の影響から、途方もなく変化した。紫と謂《い》っても、茜《あかね》と謂っても皆、昔の様な、染め漿《しお》の処置《とりあつかい》はせなくなった。そうして、染め上りも、艶々しく、はでなものになって来た。表向きは、こうした色の禁令が、次第に行きわたって来たけれど、家の女部屋までは、官《かみ》の目も届くはずはなかった。
家庭の主婦が、居まわりの人を促したてて、自身も精励してするような為事は、あて人の家では、刀自等の受け持ちであった。若人たちも、田畠に出ぬと言うばかりで、家の中での為事は、まだ見参《まいりまみえ》をせずにいた田舎暮しの時分と、大差はなかった。とりわけ違うのは、其家々の神々に仕えると言う、誇りはあるが、小むつかしい事がつけ加えられて居る位のことである。外出には、下人たちの見ぬ様に、笠を深々とかずき、其下には、更に薄帛《うすぎぬ》を垂らして出かけた。
一時《いっとき》たたぬ中に、婢女ばかりでなく、自身たちも、田におりたったと見えて、泥だらけになって、若人たち十数人は戻って来た。皆手に手に、張り切って発育した、蓮の茎を抱えて、廬《いおり》の前に並んだのには、常々くすり[#「くすり」に傍点]とも笑わぬ乳母《おも》たちさえ、腹の皮をよって、切ながった。
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郎女様。御覧《ごろう》じませ。
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竪帳《たつばり》を手でのけて、姫に見せるだけが、やっとのことであった。
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ほう――。
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何が笑うべきものか、何が憎むに値するものか、一切知らぬ上※[#「藹」の「言」に代えて「月」、第3水準1−91−26]《じょうろう》には、唯常と変った皆の姿が、羨《うらやま》しく思われた。
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この身も、その田居とやらにおり立ちたい――。
めっそうなこと、仰せられます。
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めっそうな。きまって、誇張した顔と口との表現で答えることも、此ごろ、この小社会で行われ出した。何から何まで縛りつけるような、身狭乳母《むさのちおも》に対する反感も、此ものまね[#「ものまね」に傍点]で幾分、いり合せがつく様な気がするのであろう。
其日からもう、若人たちの糸縒《いとよ》りは初まった。夜は、閨《ねや》の闇の中で寝る女たちには、稀《まれ》に男の声を聞くこともある、奈良の垣内《かきつ》住いが、恋しかった。朝になると又、何もかも忘れたようになって績《う》み貯《た》める。
そうした糸の、六かせ七かせを持って出て、郎女に見せたのは、其数日後であった。
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乳母よ。この糸は、蝶鳥の翼よりも美しいが、蜘蛛《くも》の巣《い》より弱く見えるがよ――。
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郎女は、久しぶりでにっこりした。労を犒《ねぎら》うと共に、考えの足らぬのを憐むようである。刀自は、驚いて姫の詞《ことば》を堰《せ》き止めた。
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なる程、此は脆《さく》過ぎまする。
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女たちは、板屋に戻っても、長く、健やかな喜びを、皆して語って居た。
全く些《すこ》しの悪意もまじえずに、言いたいままの気持ちから、
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