田居[#「田居」は底本では「田舎」]とやらへおりたちたい――、
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を反覆した。
刀自は、若人を呼び集めて、
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もっと、きれぬ糸を作り出さねば、物はない。
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と言った。女たちの中の一人が、
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それでは、刀自に、何ぞよい御思案が――。
さればの――。
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昔を守ることばかりはいかつい[#「いかつい」に傍点]が、新しいことの考えは唯、尋常《よのつね》の婆の如く、愚かしかった。
ゆくりない声が、郎女の口から洩《も》れた。
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この身の考えることが、出来ることか試して見や。
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うま人を軽侮することを、神への忌みとして居た昔人である。だが、かすかな軽《かる》しめに似た気持ちが、皆の心に動いた。
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夏引きの麻生《おふ》の麻《あさ》を績むように、そして、もっと日ざらしよく、細くこまやかに――。
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郎女は、目に見えぬもののさとし[#「さとし」に傍点]を、心の上で綴って行くように、語を吐いた。
板屋の前には、俄《にわ》かに、蓮の茎が乾し並べられた。そうして其が乾くと、谷の澱《よど》みに持ち下りて浸す。浸しては晒《さら》し、晒しては水に漬《ひ》でた幾日の後、筵《むしろ》の上で槌《つち》の音高く、こもごも、交々《こもごも》と叩き柔らげた。
その勤《いそ》しみを、郎女も時には、端近くいざり出て見て居た。咎《とが》めようとしても、思いつめたような目して、見入って居る姫を見ると、刀自は口を開くことが出来なくなった。
日晒しの茎を、八針《やつはり》に裂き、其を又、幾針にも裂く。郎女の物言わぬまなざしが、じつと若人たちの手もとをまもって居る。果ては、刀自も言い出した。
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私も、績みましょう。
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績みに績み、又績みに績んだ。藕糸《はすいと》のまるがせが、日に日に殖えて、廬堂の中に、次第に高く積まれて行った。
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もう今日は、みな月に入る日じゃの――。
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暦の事を言われて、刀自はぎょっ[#「ぎょっ」に傍点]とした。ほんに、今日こそ、氷室《ひむろ》の朔日《ついたち》じゃ。そう思う下から歯の根のあわぬような悪感を覚えた。大昔から、暦は聖《ひじり》の与《あずか》る道と考えて来た。其で、男女は唯、長老の言うがままに、時の来又去った事を教わって、村や、家の行事を進めて行くばかりであった。だから、教えぬに日月を語ることは、極めて聡《さと》い人の事として居た頃である。愈々《いよいよ》魂をとり戻されたのか、と瞻《まも》りながら、はらはらして居る乳母《おも》であった。唯、郎女《いらつめ》は復《また》、秋分の日の近づいて来て居ることを、心にと言うよりは、身の内に、そくそくと感じ初めて居たのである。蓮は、池のも、田居のも、極度に長《た》けて、莟《つぼみ》の大きくふくらんだのも、見え出した。婢女《めやっこ》は、今が刈りしおだ、と教えたので、若人たちは、皆手も足も泥にして、又田に立ち暮す日が続いた。

   十七

彼岸中日 秋分の夕。朝曇り後晴れて、海のように深碧《ふかみどり》に凪《な》いだ空に、昼過ぎて、白い雲が頻《しき》りにちぎれちぎれに飛んだ。其が門渡《とわた》る船と見えている内に、暴風《あらし》である。空は愈々《いよいよ》青澄み、昏《くら》くなる頃には、藍《あい》の様に色濃くなって行った。見あげる山の端は、横雲の空のように、茜色《あかねいろ》に輝いて居る。
大山颪《おおやまおろし》。木の葉も、枝も、顔に吹きつけられる程の物は、皆|活《い》きて青かった。板屋は吹きあげられそうに、煽《あお》りきしんだ。若人たちは、悉《ことごと》く郎女の廬《いおり》に上って、刀自《とじ》を中に、心を一つにして、ひしと顔を寄せた。ただ互の顔の見えるばかりの緊張した気持ちの間に、刻々に移って行く風。西から真正面《まとも》に吹きおろしたのが、暫らくして北の方から落して来た。やがて、風は山を離れて、平野の方から、山に向ってひた吹きに吹きつけた。峰の松原も、空様《そらざま》に枝を掻き上げられた様になって、悲鳴を続けた。谷から峰《お》の上《へ》に生え上《のぼ》って居る萱原《かやはら》は、一様に上へ上へと糶《せ》り昇るように、葉裏を返して扱《こ》き上げられた。
家の中は、もう暗くなった。だがまだ見える庭先の明りは、黄にかっきり[#「かっきり」に傍点]と、物の一つ一つを、鮮やかに見せて居た。
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郎女様が――。
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誰かの声である。皆、頭の毛が空へのぼる程、ぎょっとした。其が、何だと
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