其を聞してほしいものだ。……波斯人とやらが傳來した法かも知れぬ。
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俄かに、友人に對するやうに親しい感情が漲つて來た。
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遺憾なことには、其以上承つて居りません。
誰か、もつとくはしく傳へてゐる人はないものかな。
いや、日京に限りましては、知つたものが、一人も山には殘つて居りません。
それにしても、ありさうなものだが……。其に關聯した記録類があるだらう――。
いえ――。其さへ百年前の□□天火《テンピ》で炎上いたしました。
その書き物が燒けたといふ證據があつて、さう言ふのだらうか。
いえ、全く噂ばかりで御座います。明らかに亡くなつたといふしるし[#「しるし」に傍点]は傳へて居りませぬ。ですが――、何分百年此方、誰もその書き物を見たと申しませんから――。
それもある――。やつぱりあきらめるのかな。
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大臣は、日京卜の文獻が、曾て自分の所藏であつたと言ふやうな氣持ちになつて居るのであらう。
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だが――何とか調べる方法はないかね。
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律師は、返事をしないで、敬虔で空虚な沈默の表情
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