す。御座興にならば、私でも見てさしあげます。
ほう――。そこ[#「そこ」に傍点]がね。
宿曜師など言ふほどのことも御座いませんので――。本道《ホンタウ》を申せば、いろ/\な術を傳へて居ります山で、――
開山が、易の八卦をはじめて傳へられたとも聞いてゐるが、其はどうなつて居る――。
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この時、相手に出てゐた※[#「蚌のつくり」、第3水準1−14−6]惠律師といふのが、不用意に動した表情を忘れない。「此は、山の人々が考へてゐるやうな、公家衆ではないかも知れぬ。」さう謂つた警戒の樣子を、ちらとほのめかした。
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大師が唐土から將來せられたといふのは、易の八卦ばかりでは御座いません。もつと、西域の方から長安の都に傳つて居ました日京卜といふ、物の枝を探つて、虚空へ投げて卜ふ術まで傳へて還られました。
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大臣は、自分の耳を疑ふやうな顏をした。
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なに、木枝を投げて卜ふ――。
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見る/\和やかで、極度に謙虚な樣子が、顏ばかりではない。肩に、腕に、膝に流れて來た。
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