を守つてゐた。
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若し御參考になれば、結構だと存じますが、かう言ふ話は、御役に立ちませんでせうか。
百年以來姿を見せなくなつた書物を探し出す方法があると言ふのだね。
そんな確かなことではありません。唯此山でも、外には一切しない方法で、卜ひをする時が、たつた一度御座いますので――すが、まる/\關係ありさうでもないのですが、開山大師の御廟に限つてすることでありますし、
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大臣は、はやくも、三百年前歸朝僧の船で、大唐から持ち還られた古い書物の行間に身を踊らし、輝かしてゐる紙魚に、自分がなつてゐる氣がしてゐた。
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大師だけの大徳になりますと、死後二百年の今に到りましても、まだ鬢髮が伸びます。
あゝさうか――。其は聞いた氣がする。それ/\太平廣記といふ――これは雜書だがね――、その書物には、身毒《シンドク》の人|屍《シカバネ》を以て、臘人《ラフジン》を作るとあるがな。臘人を掘り出して藥用にする。其新しき物には、鬢髮を生ずるものあり、とある其だね。
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律師は、手ごたへがあるにはあつたが、はぐらかされたやうな
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