對してのお勤めであつた。
かう言ふことの眞似び[#「眞似び」に傍点]は、公家のどの家でもすることではなかつた。
南北三町・東西五町にあまる境内。總門は南の岡の上にあつて、少しの勾配を降ると、七堂伽籃の立つ平地である。門の東西に離れて、向きあつた岡の高みに、雙塔が立つてゐる。
寺は、松の林の中にあつて、門から一目に見おろされる構へであつた。
今の京になつて三百年、その前にまだ奈良の宮・飛鳥の都百五十年を隔てた昔、この寺をこゝに建てた家は、一族ひろい氏であつたが、其があとかたもなく亡びてしまつて、氏寺だけが殘つた。
寺は、丹も雄黄ももの古りたが、都の寺々にも劣らぬ結界の淨らかさである。
内から南は、たゞ野である。畠もない。だが林もない。叢と石原とが、次第上りの野に續いてゐて、末は、高い山になつてゐた。阿闍梨一行は昨日來た道を歸つて行つた。寺から下にある當麻の村にさがつて行く道だから忽見えなくなつた。
葛城の峰は、門の簷から續いて、最後は、遠く雲に入つてゐる。その高い頂ばかり見えるのが、葛城のこゞせ山、それから梢低くこちらへ靡いてゐるのが、かいな嶽。その北に長い尾根がなだれるやうに續いて、こ
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