は、律師を送つて、總門のあたりまで、おれも出て見よう。
やめに遊ばされませ。勿體なすぎます。
内の上扱ひは、よしたがよい。おれは、外の公家たちのやうなことは、喜ばないぞ。
[#ここで字下げ終わり]
内の上と謂はれた宮廷の主上は、出入りにも、御自身の御足を以ておひろひなされぬといふ噂は、世の中にひろまつてゐた空言であつた。併し、その空言を凡實現するのは、大貴族の人たちだつた。近代になつて、宮廷に行はれてゐる事で、大公家の家で行はれてゐないことなど、凡一つもなかつた。時々畏れ多いなど言ふ考へを持つ人もあるが、其は宮中勤めの仲間をはづれて、稍老いはじめてから、公家女房に立ちまじるやうになつた古御達だけであつた。内の上に限つてあることは、時々内侍所にお仕へになる日があることである。殊に冬に入つてからは、其が多かつた。隙間風の激しい板敷きの上に半日以上、すわり暮しておいでの時もあり、夜中から曉方まで、冷えあがるやうな夜、三度までお湯をお使ひあそばすこともあつた。
神代以來の爲來たりだとはいへ、内侍所に仕へる女たちも、しみ/″\つらく感じてゐる。其をもつと烈しい度合ひでなさるのが、内の上の、神樣に
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