に、――世間を救ふ經文《キヤウモン》の學問すら出來んで暮して居ります。
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こんなもの言ひが、人に恥ぢをかゝせる、と言ふことも考へないで言うてゐる。さうではなからう――。恥ぢをかゝせて――、恥しめられた者の持つ後味《アトアヂ》のわるさを思ひもしないで、言ふいたはりのなさが、やはり房主の生活のあさましさなのだ。
――大臣は、瞬間公家|繪《ヱ》かきの此頃かく、肖像畫を思ひ浮べてゐた。その繪の人物になつたやうなおほどかな氣分で、ものを言ひ出した。
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其でも、卿《ソコ》たちは羨しい暇を持つておいでだ。美しい稚兒法師に學問を爲込まれる。それから、一かどの學生《ガクシヤウ》に育てゝ、一生は手もとで見て行かれる。羨しいものだと、高野に來た誰も彼もが言ふが、――内典を研究する人たちには、さう言ふゆとりがあるから羨しいよ。博士よ進士《シンジ》よと言つても、皆|陋《サモ》しい者ばかりでね――。
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大臣は、いやな下※[#「くさかんむり/(月+曷)」、第3水準1−91−26]《ゲラフ》たちを、二重に叩きつけるやうなもの(言ひ)をした。物體《モ
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