ならぬ明るい午後、開山堂の中で見たのは、どうだつた。
おれは、きつと開山の屍臘を見ることだらうと想像してゐた。さう信じて、廿年に一度開く勅封の扉を、開けさした時、其から□□□□□その中の闇へ、五六歩降つて行つた時、※[#「蚌のつくり」、第3水準1−14−6]惠の持つてゐた燈《アカシ》が、何を照し出したか。思ひ出すことゝ、嘔氣《ハキケ》とが、一つであつた。思ひ出すことは、口に出して喋るのと、一つであつた。考へをくみ立てるといふことが、自分の心に言つて聞せることのやうに、氣が咎めた。結局、何も考へないことが、一番心を鎭めて置くことになつたのだ。大臣は、考へまいと尻ごみする心を激勵してゐる。
おれは、どうも血筋に引かれて、兄の殿や父君に、段々似通うて來る樣だ。あの決斷力のない關白の爲方を見てぢり/″\する自分ではないか。何事もうちゝらかしておいて、其が收拾つかぬ處まで見きはめて、愉しんでゞもゐるやうな、入道殿下《ニフダウテンガ》を見るのも厭はしい氣のしたおれだつたのに――。そのおれが、幻のやうな現實を、それが現實である爲に、一層それに執著して細かに考へようとしてゐる。無用の考へではないか。

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