後夷人の教へが久しく傳つて、今も行はれてゐる。長安の都にも、その教義をひろめる爲に、私に寺を建てる者があつて、盛んに招魂の法を行つて、右の夷人の姿を招きよせて、禮拜する。信じる風が次第に君子士人の間に擴つて流弊はかり難いものがある。とさう言ふ風のことが書いてあるのだがね。――ちよつと、空海和上が入唐したのが、大唐の貞元から元和へかけての間であつたから、西觀唐紀の出來て間のないことだ。
とにもかくにも、開山大師將來の日京卜のなごり[#「なごり」に傍点]らしく傳へるものは、此だけで御座います。
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律師は、知識において大刀うちの出來さうもない相手だと悟つた。それに、美しい詞――。美しい齒ぎれのすが/″\しい詞を發する清らかな口――。ふくよかな頬――。
山に育つて、青春を經佛堂の間で暮した山僧は、女を眺める心は、萎微してゐた。思ひがけない美しさを感じる目で、周圍の男たちを凝視してゐる時が多かつた。律師は、まのあたりにくつろいだ貴人の、まだ見たことのないゆたけさの何處をとつて見ても、美しさに歸せぬものゝないのに驚きはじめてゐた。
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ともかく招魂法を卜
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