点]の沙汰で御座います。が、その時、磔物の柱のやうな木の枝が、鬢髮伸びるがまゝに生ひ垂れた、一人の高僧の姿となつて見えるさうに申します。
此御姿を拜んで、翌《ア》けの日御廟を開いて、大師のみかげ[#「みかげ」に傍点]をまのあたりに拜しまゐらせますと、昨日見たまゝの髮髭の伸び加減だと申します。
御僧は、その目で、前の日の幻と、その日の正身《シヤウジン》のみ姿とを見比べた訣だな――。其が寸分|違《タガ》はぬと世俗に言ふ――その言ひ來たりのまゝだつたかね。――ふうん、其大師の鬢髮の伸びを勘へる、西域の占象《ウラカタ》だよ。占象では當らぬかな。招魂の法――あれだ。『波斯より更に遙かにして、夷人極めて多し。中に、招魂千年の法を傳ふるあり。謂《イヒ》は、千年の舊き魂をも招き迎へて、目前に致すこと、生前の姿の如し。』と言ふ。
[#ここで字下げ終わり]
暗記を復誦しながら、如何にも空想の愉しさに溺れてゐるやうな大臣の顏である。
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西觀唐紀の逸文にあるのだがね――、その後に、昔、神變不思議の術を持つた一人の夷人が居てね。その不思議な術の爲に、訝まれ疑はれて、磔物にかゝつて死んだ。其
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