法師に似てるがやと言ふぞな。……けど、他人《ひと》に言はせると、――あれはもう十七年にもなるかいや――筑紫で伐たれなさつた前太宰少弐《ぜんだざいのせうに》―藤原広嗣―の殿《との》に生写《しやううつ》しぢやとも言ふがいよ。
わしにも、どちらとも言へんがの。どうでも、見たことあるお人に似て居さつせることは似て居るげなが……。
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何しろ此二つの天部《てんぶ》が、互に敵視するやうな目つきで睨みあつて居る。噂を気にした住侶たちが、色々に置き替へて見たが、どの隅からでも相手の姿を眦を裂いて見つめて居る。とう/\あきらめて、自然にとり沙汰の消えるのを待つより為方がないと思ふやうになつた。
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若しや、天下に大乱でも起らなければえゝが。
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こんな囁きは、何時までも続きさうに、時と共に倦まずに語られた。
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前《ぜん》少弐卿でなくて、弓削新発意《ゆげしんぼち》の方であつてくれゝば、いつそ安心だがなあ。あれなら、事を起しさうな房主でもなし。
起したくても起せる身分でもないぢやて……。
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