廷より外には、石城《しき》を完全にとり廻した豪族の家などは、よく/\の地方でない限りは、見つからなくなつて居る筈なのである。
其に一つは、宮廷の御在所が、御一代々々々に替つて居た千数百年の歴史の後に、飛鳥の都は、宮殿の位置こそ、数町の間をあちこちせられたが、おなじ山河一帯の内にあつた。其で凡そ、都遷りのなかつた形になつたので、後から/\地割りが出来て、相応な都城の姿は備へて行つて居た。其数朝の間に、旧族の屋敷は段々、家構へが整うて行つた。
葛城に元のまゝの家を持つて居て、都と共に一代ぎりの屋敷を構へて居た蘇我臣《そがのおみ》なども、飛鳥宮では、次第に家作りを拡めて行つて、石城《しき》なども高く、幾重にもとり廻して、凡永久の館作りをした。其とおなじ様な気持ちから、どの氏でも大なり小なり、さうした石城づくりの屋敷を構へて行つた。
蘇我臣一家の権威を振うた島ノ大殿家の亡びた時分から石城の構へは禁められ出した。
この国のはじまり、天から伝へられたと言ふ、宮廷に伝る神の御詞《みこと》に背く者は、今もなかつた。が、書いた物の力は、其が何処から出たものであらうとも、其ほどの威力を感じるに到らない時代
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