に雇はれた。その後も、当麻路の修復に召し出された。此お墓の事は、よく知つて居る。ほんの苗木ぢやつた栢《かへ》が、此ほどの森になつたものな。畏かつたぞよ。
此墓の魂《たま》が、河内|安宿部《あすかべ》から石|担《も》ちに来て居た男に憑いた時はなう。
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九人は、完全に現し世の庶民の心になり還つて居た。山の上は、昔語りするには、あまり寂しいことを忘れて居たのである。時の更け過ぎた事も、彼等の心には、現実にひし/\と感じられ出したのだらう。
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もう此でよいのだ。戻らうや。
よかろ/\。
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皆は、鬘をほどき、杖を棄てた白衣の修道者と言ふだけの姿《なり》になつた。
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だがの。皆も知つてようが、このお塚は由緒深《ゆゐしよぶか》い、気のおける処ゆゑ、まう一度魂ごひをしておくまいか。
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長老《おとな》の語と共に、修道者たちは、魂呼《たまよば》ひの行《ぎやう》を初めたのである。
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こう こう こう
をゝ……。
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異様な声を出すものだと、初めは誰も
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