、自分らの中の一人を疑ひ、其でも変に、おぢけづいた心を持ちかけてゐた。も一度、
[#ここから1字下げ]
こう こう こう
[#ここで字下げ終わり]
其時、塚穴の深い奥から、冰りきつた、而も活き出したばかりの様な声が、明らかに和したのである。
[#ここから1字下げ]
をゝ……。
[#ここで字下げ終わり]
九人の心は、ばら/″\の九人の心であつた。からだも亦ちり/″\に、山田谷へ、竹内谷へ、大阪越へ、又当麻路へ、峰にちぎれた白い雲のやうに、消えてしまつた。
唯畳まつた山と谷とに響いて、一つの声ばかりがしてゐる。
[#ここから1字下げ]
をゝ……。
[#ここで字下げ終わり]
三
[#ここから1字下げ]
おれは活《い》きた。
[#ここで字下げ終わり]
闇い空間は、明りのやうなものを漂してゐた。併し其は、蒼黒い靄の如くたなびくものであつた。巌ばかりであつた。壁も牀《とこ》も梁《はり》も、巌であつた。自身のからだすらが、既に巌になつて居たのだ。屋根が壁であつた。壁が牀であつた。巌ばかり――。触《さは》つても/\巌ばかりである。手を伸すと、更に堅い巌が掌に触れた。脚をひろげると、
前へ
次へ
全148ページ中50ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
折口 信夫 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング