此|姥《うば》は、生れなさらぬ前からのことも知つて居りまする。聴いて見る気がおありかえ。
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一旦、口がほぐれると、老女は止めどなく喋り出した。姫は、この姥の都に見知りのある気がした訣を悟つた。藤原南家にも、常々、此年よりとおなじやうな媼《おむな》が出入りして居た。郎女たちの居る女部屋までも、何時もづか/\這入つて来て、憚りなく物語つた。あの中臣志斐媼《なかとみのしひのおむな》――。
あれとおなじ表情をして居る。其も尤であつた。志斐ノ姥が藤氏《とうし》の語部《かたりべ》の一人であるやうに、此も亦、この当麻《たぎま》の村の旧族、当麻ノ真人《まひと》の氏《うぢ》の語部《かたりべ》だつたのである。
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藤原のお家が、今は四筋に分れて居りまする。だが、大織冠さまの代どころではありは致しませぬ。淡海公の時も、まだ一流れのお家で御座りました。併し其頃、やはり藤原は中臣と二つの筋に岐れました。中臣の氏人で、藤原の里に栄えられたのが、藤原と家名を申された初めで御座つた。
藤原のお流れは、公家《くげ》摂※[#「竹かんむり/(金+碌のつくり)」、第3水準1−89−
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