の節にも、呼び出されて、当麻氏の古物語を奏上せいと仰せられるかと思うて居たのも、空頼みになつて、その沙汰がなかつた。其此はもう、自分、自分の祖《おや》たちが長く覚え伝へ語りついで、かうした世に逢はうとは考へもつかなかつた時代《ときよ》が来たのだと思うた瞬間、何もかも見知らぬ世界に住んでゐる気がして、唯驚くばかりであつた。娯しみを失ひきつた当麻の古婆は、もう飯を喰べても味は失つてしまつた。水を飲んでも、口をついて、独り語りが囈語《うはごと》のやうに出るばかりになつた。
秋深くなるにつれて、衰への目立つて来た嫗は、知る限りの物語りを、喋りつゞけて死なうと言ふ腹をきめた。さうして郎女の耳に近い処を、ところをと、覚めてさまよふやうになつた。
郎女は、奈良の家に送られたことのある大唐の彩色《ゑのぐ》の数々を思ひ出した。其を思ひついたのは、夜であつた。今から、横佩墻内へ馳けつけて、彩色を持つて還れと、命ぜられたのは、女の中に唯一人残つた長老《おとな》である。つひしかこんな言ひつけをしたことのない郎女の、性急な命令に驚いて、女たちも又、何か事が起るのではないかとおど/\して居た。だが、身狭乳母《む
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