のと見た目は替るまい。
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       十五

世の人の心はもう、賢しくなり過ぎて居た。ひとり語りの物語などに、信をうちこんで聴く者はなくなつてゐる。聞く人のない森の中などで、よくつぶ/″\と物言ふ者があると思うて近づくと、其は語部の家の者だつたなど言ふ話が、どの村でも、笑ひ咄のやうに言はれるやうな世の中だ。
当麻語部[#(ノ)]嫗なども、都の上※[#「藹」の「言」に代えて「月」、第3水準1−91−26]《じやうらふ》のもの疑ひせぬ清い心に、知る限りの事を語りかけようとした。だが、忽違つた氏の語部なるが故に、追ひ退けられたのであつた。
さう言ふ聴きてを見当てた刹那に持つた執心は深かつた。その後、自身の家の中でも、又|廬堂《いほりだう》に近い木立の蔭でも、或は其処を見おろす山の上からでも、郎女に向つてするひとり語りを続けて居た。
今年八月、当麻の氏人に縁深いお方が、めでたく世にお上りなされた時こそ、再|己《おの》が世に来たと、ほくそ笑みをして居た――が、氏の神祭りにも、語部を請《しやう》じて神語りを宣《の》べさせようともしなかつた。ひきついであつた、勅使の参向
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