津《たぎまつ》彦の社には、祭り時に外れた昨今、急に氏の上の拝礼があつた。故上総守|老《おゆ》[#(ノ)]真人以来、暫らく絶えて居たことであつた。其上、もう二三日に迫つた八月《はつき》の朔日《ついたち》には、奈良の宮から勅使が来向はれる筈であつた。当麻氏から出られた大夫人《だいふじん》のお生み申された宮の御代にあらたまることになつたからである。
廬堂の中は、前よりは更に狭くなつて居た。郎女が奈良の御館からとり寄せた高機《たかはた》を設《た》てたからである。機織りに長けた女も一人や二人は、若人の中に居た。此女らが動かして見せる筬《をさ》や梭《ひ》の扱ひ方を、姫はすぐに会得《えとく》した。機に上つて日ねもす、時には終夜《よもすがら》織つて見るけれど、蓮の絲は、すぐに円《つぶ》になつたり、断《き》れたりした。其でも倦まずさへ織つて居れば、何時か織れるものと信じてゐる様に、脇目からは見えた。
乳母は、人に見せた事のない憂はしげな顔を、此頃よくしてゐる。
何しろ、唐土《もろこし》でも、天竺から渡つた物より手に入らぬといふ藕絲織《はすいとおり》を遊ばさうと言ふのぢやものなう。
話相手にもしなかつた若
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