、手にとる様に見えた。匂ひやかな笑みを含んだ顔が、はじめて、まともに郎女に向けられた。伏し目に半ば閉ぢられた目は、此時姫を認めたやうに清《すゞ》しく見ひらいた。軽くつぐんだ唇は、この女性《によしよう》に向うて物を告げてゞも居るやうに、ほぐれて見えた。
郎女は尊さに、目の低《た》れて来る思ひがした。だが、此時を過ぐしてはと思ふ一心で、その御姿から目を外さなかつた。
あて人を讃へる語と思ひこんだあの語が、又心から迸り出た。
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あなたふと、阿弥陀仏 なも阿弥陀仏
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瞬間に明りが薄れて行つて、まのあたりに見える雲も、雲の上の尊者の姿も、ほの/″\と暗くなり、段々に高く/\上つて行く。
姫が目送する間もない程であつた。忽、二上山の山の端に溶け入るやうに消えて、まつくらな空ばかりがたなびいた。
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あつし あつし
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足を蹈み、前《さき》を駆《お》ふ声が、耳もとまで近づいて来た。
十三
当麻の邑は此頃、一本の草、一塊《ひとくれ》の石にも光りがあるほど、賑ひ充ちて居る。
当麻真人家の氏神|当麻
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