なだれ落ちてゐる大きな曲線《たわ》が、又次第に両方へ聳《そゝ》つて行つてゐる此二つの峰の間《あひだ》の広い空際《そらぎは》。薄れかゝつた茜の雲が、急に輝き出して、白銀《はくぎん》の炎をあげて来る。山の間《ま》に充満して居た夕闇は、光りに照されて紫だつて動き初めた。
さうして暫らくは、外に動くもののない明るさ。山の空は、唯白々として照り出されて居る。
肌、肩、脇、胸、豊満な姿が、山の曲線《たわ》の松原の上に現れた。併し、俤に見つゞけた其顔のみはやつれてほの暗かつた。
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今すこし著《しる》くみ姿示したまへ。
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郎女の口よりも、皮膚をつんざいて、あげた叫びである。山腹の紫は、雲となつて靉き、次第々々に降る様に見えた。
明るいのは山の際《は》ばかりではなかつた。地上は砂《いさご》の数もよまれるばかりである。
しづかに/\雲はおりて来る。万法蔵院の香殿・講堂・塔婆・楼閣・山門・僧房・庫裡、悉く、金に、朱に、青に、昼より著《いちじる》く見え、自《みづか》ら光りを発して居た。
庭の砂の上にすれ/″\に、雲は揺曳して、そこにあり/\と半身を顕した尊者の姿が
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