が――、み寺の門《かど》に立つて居さつせるで、知らせに馳けつけました。
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今度は、乳母《おも》一人の声が答へた。
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なに。み寺の門に。
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婢女を先に、行道の群れは、小石を飛す嵐の中を早足に練り出した。
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あつし あつし あつし
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声は遠くからも聞えた。大風をつき抜く様な鋭声《とごゑ》が野|面《づら》に伝はる。
万法蔵院は実に寂《せき》として居る。山風は物忘れした様に鎮まつて居た。夕闇はそろ/\かぶさつて来て居るのに、山裾のひらけた処を占めた寺は、白砂が昼の明りを残してゐた。こゝからよく見える二上山の頂は、広く赤々と夕映えてゐる。
姫は山田の道場から仰ぐ空の狭さを悲しんでゐる間に、何時かこゝまで来て居たのである。浄域を穢した物忌みにこもつてゐる身と言ふことを忘れさせないものが、心の隅にあつたのであらう。門の閾から伸び上るやうにして、山の際《は》の空を見入つて居る。
暫らくおだやんで居た嵐が、又山に廻つたらしい。だが寺は物音もない。
男嶽《をのかみ》と女嶽《めのかみ》との間に
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