字下げ]
誰《たれ》ぞ、弓を――。鳴弦《つるうち》ぢや。
[#ここで字下げ終わり]
人を待つ間もなかつた。彼女自身、壁代《かべしろ》に寄せかけて置いた白木の檀弓《まゆみ》をとり上げて居た。
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それ皆の衆――。反閇《あしぶみ》ぞ。それ、もつと声高《こわだか》に――。 あつし、あつし、あつし。
[#ここで字下げ終わり]
若人たちも、一人々々の心は疾くに飛んで行つてしまつて居た。唯一つの声で、警※[#「馬+畢」、111−12]《けいひつ》を発し、反閇《へんばい》した。
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あつし、あつし
あつし、あつし、あつし
[#ここで字下げ終わり]
狭い廬の中を蹈んで廻つた。脇目からは行道《ぎやうだう》をする群れのやうに。
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郎女様は、こちらに御座りますか。
[#ここで字下げ終わり]
万法蔵院の婢女《めやつこ》が、息をきらして走つて来て、何時もならせぬやうな無作法で、近々と廬の砌《みぎり》に立つて叫んだ。
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なに――。

[#ここで字下げ終わり]
皆の口が一つであつた。
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郎女様かと思はれるあて人
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