た。さうして其が乾くと、谷の澱みに持ち下《お》りて浸す。浸しては暴《さら》し、晒しては水に潰でた幾日の後、筵の上で槌の音高くこも/″\、交々《こも/″\》と叩き柔らげた。
その勤しみを、郎女は時には、端近く来て見て居た。咎めようとしても思ひつめたやうな目して見入つて居る姫を見ると、刀自は口を開くことが出来なくなつた。
日晒しの茎を八《やつ》針に裂き、其を又幾針にも裂く。郎女の物言はぬまなざしが、ぢつと若人たちの手もとをまもつて居る。
果ては、刀自も言ひ出した。
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私も、績《う》みませう。
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績みに績み、又績みに績んだ。藕絲《はすいと》のまるがせが日に日に殖えて、廬堂《いほりだう》の中に、次第に高く積まれて行つた。
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もう今日は、みな月に入る日ぢやの――。
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暦《こよみ》のことを謂はれて、刀自はぎよつ[#「ぎよつ」に傍点]とした。大昔から暦は聖《ひじり》の与る道と考へて来た。其で、男女は唯、長老《とね》の言ふがまゝに、時の来又去つたことを知つて、村や家の行事を進めて行くばかりであつた。だから、教へ
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