ぬに日月を語ることは、極めて聡い人の事として居た頃である。愈魂をとり戻されたのかなと、瞻《まも》り乍らはら/\して居る乳母であつた。
唯、郎女は又秋分の日の近づいて来て居ることを、心にと言ふよりは、身の内にそく/\と感じ初めて居たのである。蓮は、池のも、田居のも、極度に長《た》けて、莟の大きくふくらんだのも見え出した。婢女《めやつこ》は、今が刈りしほだと教へたので、若人たちは皆手も足も泥にして、又一日二日、田に立ち暮した。


       十二

彼岸中日 秋分の夕。朝曇り後晴れて、海のやうに深碧に凪いだ空に、昼過ぎて白い雲が頻りにちぎれ/\に飛んだ。其が門渡《とわた》る船と見えてゐる内に、暴風《あらし》である。空は愈青澄み、昏くなる頃には、藍の様に色濃くなつて行つた。見あげる山の端は、横雲の空のやうに、茜色に輝いて居る。
大山颪。木の葉も、枝も、顔に吹き飛ばされる物は、皆活きて青かつた。板屋は吹きあげられさうに、きしみ揺めいた。
若人たちは、悉く郎女の廬に上つて、刀自を中に心を一つにして、ひしと寄つた。たゞ互の顔が見えるばかりの緊張した気持ちの間に、刻々に移つて行く風。
西から真正
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