》をする童と奴隷《やつこ》位しか残らなかつた。
乳母《おも》や若人たちも、薄々は帳台の中で夜を久しく起きてゐる郎女の様子を感じ出して居た。でも、なぜさう夜深く溜め息ついたり、うなされたりするか、知る筈はない昔気質の女たちである。
やはり、郎女の魂《たま》があくがれ出て、心が空しくなつて居るものと、単純に考へて居る。ある女は、魂ごひの為に、山尋ねの咒術《おこなひ》をして見たらどうだらうと言つた。
乳母は、一口に言ひ消した。姫様、当麻に御安著なされた其夜、奈良の御館へ計らはずに、私にした当麻真人《たぎままひと》の家人たちの山尋ねが、いけない結果を呼んだのだ。当麻語部とか謂つた蠱物《まじもの》使ひのやうな婆が出しやばつての差配が、こんな事を惹き起したのだ。
その節、山の峠《たわ》の塚であつた不思議は、噂になつて、この貴人《うまびと》の一家の者にも知れ渡つて居た。あらぬ者の魂を呼び出して郎女様におつけ申しあげたに違ひない。もう/\軽はずみな咒術《おこなひ》は思ひとまることにしよう。かうして魂《たま》を失はれた処の近くにさへ居れば、何時かは、元のお身になり戻り遊されることだらう。こんな風に考へて
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