中の豊かな騒ぎが思ひ出された。あれからすぐ、大仏|開眼《かいげん》供養が行はれたのであつた。其時、近々と仰ぎ奉つた尊容三十二|種好《しゆがう》具足したと謂はれる其相好が、誰やらに似てゐると感じた。其がどうしても思ひ浮ばずにしまつた。その時の連想が、今ぴつたり的にあてはまつて来たのである。
かうして対ひあつて居る仲麻呂の顔なり、姿なりが、其まゝあの廬遮那《るさな》ほとけの俤だと言つて、誰が否まう。
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お身も少し咄したら、えゝではないか。官位《かうぶり》はかうぶり。昔ながらの氏は氏――。なあ、さう思ふだろう。紫微中台と兵部省と位づけするのは、うき世の事よ。家《うち》に居れば、やはり神代以来《かみよいらい》の氏の上《かみ》づきあひをしようよ――。
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新しい唐の制度の模倣ばかりして、漢《もろこし》の才《さえ》がやまと心[#「やまと心」に傍点]に入り替つたと謂はれて居る此人が、こんな嬉しいことを言ふ。家持は感謝したい気がした。理会者、同感者を思ひがけない処に見つけ出した嬉しさだつたのである。
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お身は、宋玉や、登徒子の書いた物を
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