大分持つて居ると言ふが、太宰府へ行つた時に手に入れたのぢやな。あんな若い年で、わせ[#「わせ」に傍点]だつたんだなう。お身は――。お身の家では古麻呂《こまろ》、身の氏に近い者では奈良麻呂、あれらは漢魏はおろか今の唐の小説なども、ふり向きもせんから、咄にはならぬて。
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兵郡大輔は、やつと話のつきほを捉へた。
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お身さまの話ぢやが、わしは賦の類には飽きました。どうも、あれが、この四十面さげてもまだ、涙もろい詩や歌の出て来る元になつて居る――さうつく/″\思ひますので。ところで近頃は方《かた》を換へて、張文成を拾ひ読みすることにしました。あの方が、なんぼか――。
大きに、其は、身も賛成ぢや。ぢやが、お身がこの年になつても、まだ二十《はたち》代の若い心や瑞々しい顔を持つて居るのは宋玉のおかげぢやぞや。まだなか/\隠れては歩き居ると人の噂ぢやが、嘘ぢやない。身が保証する。おれなどは張文成ばかり古くから読み過ぎて、早く精気が尽きてしまうた心持ちがする。――ぢやが全く、文成はえゝなう。漢土《もろこし》びとぢやとは言へ、心はまるでやまとのものと一つと思ふが
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