ろう。が、こうした結婚法は、どこまでが実生活の俤《おもかげ》で、どこからが神話化せられているのか、区別がつきにくい。
 ただ、この形のいま一つ古い形と見られるのは、女の家に通うという手ぬるい方法でなく、よその娘を盗んでくる結婚の形である。
 外族の村どうしの結婚の末、始終円満に行かず、何人か子を産んで後、ついに出されて戻った妻もあった。そうなると、子は父の手に残り、母は異郷にあるわけである。子から見れば、そうした母のいる外族の村は、言おう様なく懐しかったであろう。夢のような憧れをよせた国の俤は、だんだん空想せられていった。結婚法が変った世になっても、この空想だけは残っていて「妣《ハヽ》が国」という語が、古代日本人の頭に深く印象した。妣は祀られた母という義である。また古伝説にも、死んだ妣の居る国というふうに扱うているが、この語を使った名高い僅かな話が、亡き母に関聯しているためであろう。この語は以前私も、日本人大部分の移住以前の故土を、譬喩的に母なる国土としたのだと考えていたが、そうではない。全然空想の衣を着せられて後は、恋しい母の死んで行っている所というふうに考えられたであろうが、意義よ
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