。御神楽《ミカグラ》の時に出る者である。此まで、才の男[#「才の男」に傍線]は専ら、人であつて、神楽の座に滑稽を演じる者と言ふ風に考へられて居る事は、呪言の展開の処で述べた。江家次第・西宮記などにも「人長《ニンヂヤウ》の舞」の後、酒一|巡《ズン》して「才の男の態」があると次第書きしてゐる。此は、後には、才の男[#「才の男」に傍線]を人と考へる事になつたが、元は、偶人であつた事を見せて居るのである。「態」の字は、わざ[#「わざ」に傍点]・しぐさ[#「しぐさ」に傍点]を身ぶり[#「身ぶり」に傍線]で演じた事を示して居る。神楽の間に偶人が動いてした動作を、飜訳風に繰り返して、神の意思を明らかに納得しようとするのかと思はれる。又、人形なるさいのを[#「さいのを」に傍線]を使はぬ時代に、やはり古風に人形の物真似だけをしたのかも知れぬ。今の処、前の考への方がよいと思ふ。相手の一挙一動をまねて、ぢり/\させる道化役を、もどき[#「もどき」に傍線](牾)と言うて、神事劇の滑稽な部分とせられて居る。「才の男の態」と言ふのは、もどき役[#「もどき役」に傍線]の出発点を見せてゐるのであるまいか。一体、宮中の
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