[#「さむらひゞと」に傍線]で、舎人《とねり》を模した私設の随身《ズヰジン》である。其が寺奴の出であらうと言ふ事は、半僧半俗と言ふよりは、形だけは同朋《ドウボウ》じたてゞあるが、生活は全くの在家以上で、殺生を物ともせなかつた。山法師や南都大衆は此候人の示威団体だつたのである。室町御所になつて出来た同朋が、荒事を捨てゝも、多く、社奴・寺奴の方面から出て居たのは、一つの註釈になる。
侍の唱へる「斎《ユ》の木《キ》の下の御方《オンコト》は」に対して「さればその事。めでたく候」と答へる主公は、自身の精霊の代理である。即、返し祝詞と言はれるものゝ類である。寿詞を受けた者の内部から発するはずの声を、てつとり[#「てつとり」に傍線]早く外側から言ふ形であらう。謂はゞ天子の受けられる賀正事《ヨゴト》に、天子の内側の声が答へると言ふ形式があつたものとすれば、よく訣る事だ。自分の内部に潜む精霊の、祝言に応じて言ふ返事の、代役と言ふ事になるのであらう。賀正事も唯の廟堂の権臣としての資格からするのではなからう。それ/″\の氏《ウヂ》[#(ノ)]上《カミ》たり、村の君たる者として、当然持つた神主の祭祀能力から出
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