ない祝詞の範囲まで入り込んで行つた。併し、此二つほど、限界の入り乱れて居るものはない。一つを説く為には、今一つを註釈とせぬ訣には行かない。寿詞の範囲が狭まり、祝詞が段々新しい方面まで拡つて行つた為、大体には、二様の名で区別を立てる様になつた。新作の祝詞と言ふべき分までも、寿詞と言つたのが飛鳥朝の末・藤原の都頃であつた。祝詞の名は、奈良に入つて出来たもので、唯此までもあつた「告《ノ》り処《ト》」なる神事の座で唱へる「のりと言《ゴト》」に限つての名が、漸くすべての呪言の上におし拡められて来たのである。


   巡遊伶人の生活

     一 祝言職

人の厭ふ業病をかつたい[#「かつたい」に傍線]といふ事は、傍居《カタヰ》の意味なる乞食から出たとするのがまづ定論である。さすれば、三百年以来、おなじ病人を、ものよし[#「ものよし」に傍線]と言ひ来つた理由も、訣《わか》る事である。ものよし[#「ものよし」に傍線]なる賤業の者に、さうした患者が多かつたか、又は単に乞食病ひと言ふ位の卑しめを含ませたものとも思はれる。ものよし[#「ものよし」に傍線]が、近代風の乞食者となるまでには、古い意味の乞食
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