によつて其由来の伝へられたものも多かつたらしい。併し、其母体なる物語の尚《なほ》存してゐて、其内から抜き出したものも多い事は、証明出来る。由来の忘られたものは、民間理会によつて適当らしい人・時・境遇を推し宛てゝ、作者や時代を極めてゐる。其為、根本一つに違ひない大歌に、人物や事情の全く違うた両様の説明が起つた。更に其うた[#「うた」に傍線]を二様に包みこんだ別殊の叙事詩があつたりもした。
氏々の呪言・叙事詩の類から游離したうた[#「うた」に傍線]・ことわざ[#「ことわざ」に傍線]のあつた事、並びに、其が大歌や呪文に採用せられたことは明らかである。大抵冒頭の語句を以て名としたふり[#「ふり」に傍線]と称するものは、他氏・他領出自の歌であつた。さうして、其には必、魂ふり[#「魂ふり」に傍線]の舞ぶり[#「舞ぶり」に傍線]を伴ふ。此が「風俗《フゾク》」である。中には、うた[#「うた」に傍線]の形を採りながら、まだ「物語」から独立しきつて居ないばかりか、其曲節すら、物語に近いものがあつたらしい。天語歌《アマガタリウタ》・読歌《ヨミウタ》などが、其である。

[#5字下げ]六 天語と卜部祭文との繋
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