[#「こひ」に傍線]とる事は、恋愛・結婚の成立である。古代伝承には、女性と男性との争闘を、結婚の必須条件にして居た多くの事実を見せてゐる。死者の霊を呼び還すにも、同じ方法の儀式・同じ発想の詞章が用ゐられた。其為、万葉の如き後の物にすら、多くの挽歌が恋愛要素を含み、相聞に挽歌発想をとつたものを交へてゐるのである。恋歌分化後にも、類型をなぞる事は絶えなかつたからである。
氏々伝承の詞章から展開した歌詞の系統は、右の通り、随分後まで見える。其等の詞章は、大体におふせ[#「おふせ」に傍線]とまをし[#「まをし」に傍線]との二つの形に分れる。寿詞が勢力を持つ時代になると、おふせ[#「おふせ」に傍線]の影は薄くなり、大体まをし[#「まをし」に傍線]に近づく。奈良の宣命や、孝謙・称徳天皇の遣唐使に仰せられた歌(万葉)などを見ると、まをし[#「まをし」に傍線]の形が交つて来てゐる。此は神に対してとるべきおふせ[#「おふせ」に傍線]の様式が、神の向上によつて、まをし[#「まをし」に傍線]に近づいて来た事の影響である。平安の祝詞の悉《ことごと》くが、まをし[#「まをし」に傍線]式になつて了うた原因も、こゝ
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