まよひ[#「さまよひ」に傍線]を述べ、紐を云々する事の多いのは、皆、鎮魂式の祭儀から出て居る。極秘となつたまゝで失せた古代詞章から、其文句や発想法が分化して来たものと考へるのが、適当なのである。死後一年位は、生死を判定することの出来なかつたのが、古代の生命観であつた。さうした期間に亘つて、生魂《イキミタマ》を身に固著《フラ》しめようと、試みをくり返した。此期間が、漢風習合以前の日本式の喪《モ》であつたのである。
こふ[#「こふ」に傍線](恋ふ)と云ふ語の第一義は、実は、しぬぶ[#「しぬぶ」に傍線]とは遠いものであつた。魂を欲す[#「魂を欲す」に傍線]ると言へば、はまりさうな内容を持つて居たらしい。魂の還るを乞ふにも、魂の我が身に来りつく事を願ふ義にも用ゐられて居る。たまふ[#「たまふ」に傍線](目上から)に対するこふ[#「こふ」に傍線]・いはふ[#「いはふ」に傍線]に近いこむ[#「こむ」に傍線](籠む)などは、其原義の、生きみ[#「生きみ」に傍線]魂《タマ》の分裂《フユ》の信仰に関係ある事を見せてゐる。
だから恋歌は、後に発達した唱和・相聞の態を本式とすべきではない。生者の魂を身にこひ
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