が鎮魂呪法奉仕を中心に、中臣・斎部と対照せられてゐた。だから古代宮廷に於て、猿女が宮廷呪言を、中臣・斎部と分担して伝承して居た分量の多さは察せられる。祭祀・儀礼に発せられたのりと詞[#「のりと詞」に傍線]の叙事詩化して、猿女伝承に蓄へられた物が多かつたであらう。其鎮魂呪言が自然に体系をなして、更に種々の呪言を組織だてゝ行つた事は考へてよい。さうして、其が呪言以外の目的で、奏[#「奏」に白丸傍点]と宣[#「宣」に白丸傍点]との二方便に亘つて物語られるやうになつたのである。かうした方面から見れば「中臣寿詞」もやはりまだ、分化しきらない物語だつたのである。天孫降臨を主題にした叙事詩は猿女系統の口頭伝承に根ざしてゐるのである。
古事記の基礎となつた、天武天皇の永遠作業の一つだと伝へられて居る、習合せられた宮廷叙事詩を、諳誦して居たと言ふ阿礼舎人《アレトネリ》も、猿女[#(ノ)]君の支族なる稗田氏であつた。

[#5字下げ]四 いはひ詞[#「いはひ詞」に傍線]の勢力[#「四 いはひ詞の勢力」は中見出し]

宮廷の語部が「のりと[#「のりと」に傍線]伝承家職」から分化したことは、既に述べた。其に、
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