傍線]中心の猿女叙事詩が、宮廷が国家意識の根柢となつた時代には纏《まとま》つて居た。開闢の叙事詩よりも、天孫降臨を主題とする呪言の、栄えて行くのは当然である。聖職を以て宮廷に仕へる人々或は家々では、其専門に関した宮廷呪言に対しては、其反覆讃歎をせねばならなかつた。此が肝腎の天子ののりと[#「のりと」に傍線]を陰にして、伝宣者が奉行するやうな傾きを作り出したのである。
此伝宣の詔旨――より寧《むしろ》、覆奏――は、分化して宣命に進むものと、ある呪言の本縁を詳しく人に聴かせる叙事詩(物語)に向ふものとが出来て来た。中臣女《ナカトミメ》と汎称した下級巫女の上に、発達して来たものと推定の出来る中臣[#(ノ)]志斐《シヒ》[#(ノ)]連《ムラジ》の職業は茲《ここ》に出自があるものと思ふ。平安宮廷の女房の前身は、釆女其他の巫女である。其女房から「女房宣」の降つた様式は、由来が古いのであつた。宮廷内院の巫女の関係したまつりごと[#「まつりごと」に傍線]ののりと[#「のりと」に傍線]詞《ゴト》は、其々の巫女が伝宣した習慣を思はせる。
国魂の神の巫女なる御巫《ミカムコ》や釆女等の勢力が殖えるまでは、猿女
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