は、聴きてを予想してゐたらうと思はれる様な、対話式の態度が濃く現れて居る。
私は、叙事詩よりも呪言系統の物から、歌の発生の経路を見た方が、本義を捉へ易いと考へるから、一例として、万葉巻十六の「乞食者詠」について説明を試みたい。乞食者は祝言職人である。土地を生業の基礎とせぬすぎはひ人[#「すぎはひ人」に傍線]の中、諸国を流離して、行く先々でくちもらふ[#「くちもらふ」に傍線]生活を続けて居た者は、唯此一種類あつたばかりである。行基門流の乞食者が認められたのは、奈良の盛時に入つてのことである。だから、乞食者とは言ひでふ、仏門の乞士以後の者とは内容が違つてゐる。ほかひ[#「ほかひ」に傍線]によつて口すぎをして、旅行して歩く団体の民を称したのである。
詠は、うた[#「うた」に傍線]と訓みなれて来たけれど、正確な用字例は、舞人の自ら諷誦する詞章である。だから、いはひ[#「いはひ」に傍線]詞《ゴト》を以てほかひ[#「ほかひ」に傍線]して歩いた祝言職人の芸能に、地に謳ふ部分と、科白として謳ふ歌の部分とのあつた事が推定出来る。言ひ換へれば、此歌は劇的舞踊の詞章であつて、別に地謡とも言ふべき呪言のあつた
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