ゑ時に考・妣二体或は群行《グンギヤウ》の神が海から来た話は、播磨風土記に多く見えて居る。椎根津彦《シヒネツヒコ》は蓑笠著て老爺、弟猾《オトウカシ》は箕をかづいて老媼となつて、誓約《ウケヒ》の呪言をして敵地に入り、天[#(ノ)]香山《カグヤマ》の土を持つて帰り、祭器を作つて呪咀をした(神武紀)。此も常世神の俤であつた。
とこよのまれ人[#「とこよのまれ人」に傍線]の行うた呪言が段々向上し、天上将来の呪言即天つ祝詞など言ふ物が行はれて来、呪言の神が四段にも考へられる様になつた事は前に言うた通りである。処が邑落どうしの間に、争ひが起つたり、異族の処女に求婚する様な場合には、呪言が闘はされる。相手の呪言が有勢だつたら、其力に圧へられて呪咀を身に受けねばならぬ。自分の方の呪言に威力ある時は、相手の呪言の威霊を屈服させて、禍事《マガゴト》を与へる事が出来る。此反対に、さうした詞の災ひを却《しりぞ》けて、善い状態に戻す呪力や、我が方へ襲ひかゝつて来た呪咀を撥ね返す能力が考へられて来た。人に「まがれ」と呪ふ側と、善い状態に還す方面とが、一つの呪言にも兼ね備つて居るものと考へ出される。禍津日《マガツヒ》
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