採用したものであらう。其外に尚、血統の上の關係があるかも知れぬ。唯、諳記力の優れて居たのだらうと言ふ想像は、語部の敍事詩をとり扱うた方法に、理解がないからである。稗田[#(ノ)]阿禮が古事記の基礎になつて居る敍事詩を諳誦したと言ふのも、驚くに當らぬことである。
語部の諳誦した文章は、散文ではなかつたのである。曲節を伴うた律文であつたのだから、幾篇かの敍事詩も容易に諳誦する事が出來たはずである。邑々の語部が、段々保護者たる豪族と離れねばならぬ時勢に向うて來る。豪族が土地から別れる樣になるまでは、邑々の語部は、尚、存在の意味があつたのである。神と家と土地との關係が、語部の敍事詩を語る目的であつた。家に離れ、神に離れた語部の中には、土地にも別れねばならぬ時に出くはした者もある樣である。自ら新樣式の生活法を擇んだ一部の者の外は、平安朝に入つても、尚、舊時代の生活を續けて居た事と思はれる。
日本歌謠のおほざつぱな分類の目安は、うたひ物[#「うたひ物」に傍線]・語り物[#「語り物」に傍線]の二つの型である。敍事風で、旋律の單調な場合が「かたる」であり、抒情式に、變化に富んだ旋律を持つた時が「うたふ
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