ましても、普通文章と言へば、男と女との交換する文章、艶書ですが、艶書と言うても向ふの娘は貴族的な娘だ、向ふの娘は都の風情を知つてゐると言ふやうに、一々文章を書くのでせう。その為に非常に沢山の隠語を包含してゐる、大和言葉と言ふものが出て来ます。それは日常生活の上に、もつと都の言葉と言ふものを取り入れなければならぬ、と言ふ必要からだつたのでせう。中世の欧洲の国々でも、ろうま[#「ろうま」に傍線]の方言をば用ゐたがつて、ろうま[#「ろうま」に傍線]方言で書いた物語を好み、遂にろうまんす[#「ろうまんす」に傍線]と言ふのは伝奇小説の名前になつた。つまり、ろうま[#「ろうま」に傍線]方言と言ふものが、地方に行はれるやうになつたのでせう。都の言葉が地方へ皆這入つて来て、その言葉がその地方で形を変へて来て、ろうまんす[#「ろうまんす」に傍線]化するのです。
国々で第一に変つて来るのは発音でせう。そして方言の一番固定的な事実は発音です。発音の次にはあくせんと[#「あくせんと」に傍線]でせう。結局発音の音声的要素が一番方言で動かないものでせう。それだつてどの位の年数、同じ状態を保つか知りません。方言の語
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