彙は動き易いものだと思ひます。柳田先生のお考へも近頃さうなつて来てゐるやうです。明治の初年この方、日本の国文学に対して、博言学などゝ言うた時代から、言語学を専攻する人々は、方言の扱ひに非常に大事をとり、非常に重苦しく考へて、はふつてあつた。そしてなんでも大仕掛けに積み上げてから学問をしようとした。ところが柳田先生がちよこ/\と出て来て、一遍に今までの方言研究をひつくりかへしてしまつたのです。方言はもとから研究しなければならぬ/\と喧しく言はれてゐますけれども、たつた一人、東条操さんと言ふ我々の友人が、長い間国語研究室に籠つてやつてゐられました。そして大仕掛けにしなければこの学問は出来ないと思つてゐた。さう言ふ訣で方言の研究が非常に遅れてゐた。どうしたらいゝか見透しがつかない様な状態だつたのですけれども、近頃殆ど、筋が通つて参りました。この上は方言の大語彙と言ふものが出来ればいゝ、と思はれる位になつたと思ひます。柳田先生の御計画では、大間知さんその他の人々と一緒になつて、農村とか山村とか漁村とかの中で、色々な条件を兼ね備へた村を選んで、人事の出来事を基礎として、言葉を集めて行く、と言ふ様
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