ておくと、その人はその土地に対する力を生じるのです。入れておくと言ふことを昔の人は実際に出来る事だ、つまり、さうして体の中に這入ると思つてゐたのです。心と言ふ言葉は、水心と言へば水の一番深みの処の事で、水心とか地心とか火心とか言ひます。昔の人は、人の体にも深い処があつて、其処に魂が這入る、そして其処に旨く落着くと出て行かない、かう言ふ風な処があると考へてゐたのです。そしてそれが心だと思つてゐたのです。つまり、魂の入れ物が心なのです。心と言ふものは、必ずかう言ふ風な穴みたいなものゝ積りで使つてゐる。具体的に見ると、さう言ふ風に考へられますけれども、本当はそんな訣ではないのですから、まあ覚えてゐることなので、覚えてゐると魂が這入つてゐる訣なんですね。で、その国にある諺と言ふものは、出来るだけその土地の威力を持つてゐる人、つまり、権力者が覚えてをつたものです。
それと同時に、歌がやはりさうなのです。後には歌が非常に勢力をもつて来た為に諺が減退してしまつたのですけれども、歌と言ふものは、起りは違ふが、兎も角、二つ並んで来たのです。形式も違つてゐて、さう規則正しくは行きませんけれども、大体私共の
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